10月7日実施
Fluids Barriers CNS 15(1): 25 (2018)
神経疾患の効果的な薬物療法は、薬物が血液脳関門(BBB)を透過し、中枢神経系(CNS)で有効濃度に達することを必要とする。従来は、排出トランスポーターとして機能するP-糖タンパク質(P-gp)のCNS輸送阻害により薬物送達の改善を試みてきたが、これには阻害剤の毒性や不十分な薬物動態などの問題があり、臨床応用には至っていない。
この論文の目的は、SLCトランスポーターの一つであるOatp1a4に着目している。Oatp1a4のヒトにおけるカウンターパートはOATP1A2であり、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素A(HMG-CoA)還元酵素阻害剤(スタチン)がOatp1a4の輸送基質であることが示されているため、スタチンの神経保護効果を利用するうえで重要なターゲットとなり得る。Oatp1a4/OATP1A2をCNS薬物送達の分子標的として開発する上で、トランスポーターの発現および活性を調節しうる生物学的変数を考慮しなければならない。しかし、Oatp1a4の発現や機能に性差があるかどうかは全く研究されていない。この論文の目的は「血液脳関門におけるOatp1a4の機能的発現について性差を明らかにする」ことである。
本研究においてOatp1a4に性差があることが明らかとなり、雄の成体ラットでOatp1a4の発現・基質輸送能ともに抑制されていた。そして、性成熟前および去勢手術を行った雄マウスでは抑制が見られなかったことから、Oatp1a4の発現・輸送活性は雄性ホルモンに応答して抑制されていることが示唆された。
AAPS Pharm Sci Tech 17(2): 418-26 (2016)
BCS(バイオ医薬品分類システム)クラスⅡの薬物の溶出性は ㏗、イオン強度、緩衝能など様々な生理学的要因に依存する。それらの生理学的要因は食物摂取と消化管内の位置によって変化する。そのため、この論文では ㏗1.2 から㏗7.8までの消化管液の生理学的 ㏗ 範囲をカバーする模擬胃液と模擬腸液を用いて、弱塩基性 BCS クラスⅡ薬物であるカルベジロールの消化管内での㏗依存性溶解度と溶出挙動を研究した。これにより、消化管内でのこれらの薬物の溶解および沈殿挙動に関する知識を向上させ、in vitro と in vivo の相関関係を改善した予測溶出法の開発に関する指針を提供するのに役立つ。
この研究で行われた in vitro 溶出試験において、カルベジロールの溶解度と溶出率は ㏗ の低い胃液を模した培地で最も高かった。しかし、腸液を模した培地ではカルベジロールの溶解度と溶出率は劇的に低下し、小腸内での沈殿を示唆した。このことから、カルベジロールの溶解度と溶出率は ㏗ に強く依存していることは明らかである。また、カルベジロールの溶解度と溶出率は㏗だけでなく、イオン強度と緩衝能の影響も受けることがわかった。イオン強度が増加すると溶解度と溶出率は減少した。緩衝能を低下させると、溶解度が低下し、その結果溶出速度も低下した。緩衝物質の種類はカルベジロールの溶解度と溶出速度に顕著な影響を及ぼした。
Cell Metab 20(6): 991-1005 (2014)
肥満は、II 型糖尿病、非アルコール性脂肪肝疾患、心血管疾患、がんなど、さまざまな疾患の主要な危険因子である。肥満の発生率は増加傾向にあり、その原因は多因子だが、主な原因は栄養の不均衡とされている。
既存の研究により、1日の定義された摂食と絶食の期間が、代謝経路における概日リズムの主要な決定要因であり、活動期に食物へのアクセスが 8 時間に制限される時間制限摂食 (TRF) の早期導入が、カロリー摂取量や栄養素組成に関わらず、高脂肪食誘発性代謝性疾患の悪影響を防ぐことができることが明らかになっている。
しかし、TRFに関して以下の4点は未だ不明である。
(i) TRFが高脂肪食以外の他の栄養問題に対して有効であるか
(ii) 既存の肥満(食事誘発性肥満:DIO)の治療にも有効であるか
(iii) TRFを中止した後にも有益な効果が持続するか(レガシー効果の有無)
(iv) さまざまなライフスタイルに適応できるかどうか
この論文の目的は、さまざまな栄養課題において、時間制限摂食(TRF)が肥満および多様な代謝性疾患に対する予防的・治療的介入としてどの程度有効か包括的に評価することである。この論文中で行われた研究の結果、 (i) 高脂肪、高果糖、高ショ糖の食事に対して効果的、(ii) TRFは既存の肥満状態でも体重を減少させる、(iii) TRFのレガシー効果は、その実施期間が長いほど強くなる、(iv) 週末に短時間中断されても代謝性疾患から保護することが示された。したがって、TRFの食事誘発性肥満の改善とさまざまな栄養課題下における過剰な体重増加と脂肪蓄積の予防による疾患予防効果と治療効果の確立・糖代謝の改善、脂質・コレステロールの調節による代謝恒常性の包括的な回復、乱れた代謝産物の概日リズムを調節し肥満に伴う炎症の抑制という代謝リズムの再同調が明らかになった。
6月25日実施
代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、世界の成人人口の約30%が罹患する最も蔓延した慢性肝疾患の1つである。MASLDでは肝細胞への過剰な脂質蓄積を特徴とし、肝障害を招いて代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)や肝硬変、さらには肝細胞癌のリスクを高める。また、MASLDの罹患率の増加は、肥満や2型糖尿病、メタボリックシンドロームの有病率の上昇と密接に関連しており、公衆衛生上の問題となっている。MASLDの重篤度は認識されている一方で、その発症と進行の根底にある分子メカニズムは十分に解明されていない。
肝臓は均一な臓器ではなく肝葉間で代謝機能に大きな不均一性を示すことが明らかとなっている。これは肝血流や酸素化勾配、肝葉間での遺伝子・タンパク質発現差などに起因しており、脂質代謝や酸化ストレス応答、免疫調節に関わる酵素(FASN、ACCなど)の局所発現変動がMASLD進展への部位依存的脆弱性を生む可能性がある。しかし、これらゲノム・プロテオミクスレベルの知見に対し、代謝物・脂質プロファイルの肝葉特異的変動の解明は未だ不十分である。
この論文の目的は、複数の肝葉を網羅するMASLDマウスのメタボロームアトラスを構築することで、脂肪肝疾患に関連する動的なメタボロームの変化を網羅的に明らかにすることである。この論文中で行われた研究によって、過栄養によるMASLDの進行中に、マウスの肝臓では脂質とアミノ酸の代謝が大規模なリモデリングを起こすこと、特にL1では疾患進行中に脂質とアミノ酸に対する感受性が高まるという肝葉特異的な代謝反応を示すことが明らかになった。
Front Bioeng Biotechnol, 12: 1347995 (2024)
この論文では、皮膚の再生とリモデリングを可能にする新たな創傷被覆剤を開発したことが紹介されています。
創傷被覆剤は、外部からの損傷から保護する絆創膏やガーゼの他に、刺激に応答して薬剤を放出する被覆剤などが研究されてきました。これらは一長一短で実用化は困難であり、新たな戦略の開発が求められている状況です。この状況を受け、近年再生治療の分野が重要視され、中でも生理活性成分を保持したまま抗原成分を除去できる脱細胞化を行った細胞外マトリックス(dECM)はバイオマテリアルとして注目されています。臓器・組織由来のdECMは本来の三次元構造と豊富な活性成分を保持できますが、免疫原性、疾患伝染のリスクが問題になります。しかし、このリスクを回避できるin vitroで培養した幹細胞由来dECMについての報告はほとんどなく、創傷リモデリングへの影響は未だ明らかになっていません。
この論文では、組織の再建や修復に広く応用されているヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)から抽出したdECMを用いて、皮膚再生に取り組んでいます。この研究を通じて、新たな創傷治療法としてADSC-dECM-CMCパッチの開発に成功し、このADSC-dECM-CMCが皮膚創傷モデルマウスにおいて、血管新生の活発化を起因として、創傷退縮および創傷リモデリング促進作用を示すことが明らかになりました。